#8エキサイティングな”混合展示”
肉食動物と草食動物が共存している様子は、見ているだけで本当にサバンナにやってきたみたい! そんなよこはま動物園ズーラシアの「混合展示」の秘密について、飼育員さんに教えてもらっちゃいました!
肉食動物と草食動物が共存する
エキサイティングな空間!
よこはま動物園ズーラシアの「混合展示」の秘密とは
横浜や神奈川県の魅力的なスポットをめぐるこの企画。今回は、全国でも屈指の人気を誇る動物園である『よこはま動物園ズーラシア』にお邪魔しています。
ここズーラシアは、東京ドーム10個分の敷地面積を誇る日本最大級の動物園。「アマゾンの密林」「オセアニアの草原」「日本の山里」などさまざまなゾーンで構成されており、もっとも新しいのが「アフリカのサバンナ」ゾーンです。
同ゾーンに足を踏み入れると、ライオンやリカオンといった肉食動物はもちろん、テレビなどでもおなじみのミーアキャットや、
見た目はネズミのようですが実はゾウの近縁種という意外性の塊・ケープハイラックスなど、
かわいらしい小型動物たちにも会うことができます。
そんなサバンナゾーンで特に注目したいのが “混合展示”。
混合展示とは、 “同じ場所で異なる種類の動物を展示する” こと。種類の違う組み合わせであればなんでも「混合展示」と呼ぶのですが、ズーラシアではなんと、草食動物×肉食動物の組み合わせで4種の動物を共生させているそうです。
草食動物と肉食動物を一緒にしたら……考えただけでドキドキしちゃいますよね。
国内で肉食動物と草食動物の4種混合展示を行っている動物園はズーラシアだけ、ということで、他では味わえないエキサイティングな体験が味わえるんです!
「アフリカのサバンナ」ゾーンの中心となる草原エリアは、柵の中に広大なサバンナをイメージした広場の中で、キリン、シマウマ、エランド、チーターが一緒に暮らしています。
そんな草原エリアについて、より詳しいお話を草原エリアの飼育担当・有馬一さんに伺っていきます。
(※現在、チーターを含む混合展示は奇数日のみ。偶数日は草食動物のみです)
飼育員さんは交代制で柵の中で常駐しながら動物たちの世話をしており、お仕事中に特別にお話を聞かせていただきました!
動物たちが仲良く暮らしているように見える草原エリア、どのような工夫によって成り立っているのでしょうか?
見どころは、動物同士の「関係性」
まずお聞きしたいんですが、チーターって肉食動物ですよね?
そうですね。
シマウマとかキリンを、襲ってしまうことはないのでしょうか……?
みなさん心配されるんですけど、しっかり共存できる組み合わせを選んで混合展示をしているので大丈夫ですよ。
なるほど!草食動物・肉食動物という事実だけが、共存できるかどうかの基準ではないということですね?
そういうことですね。キリン、エランド、シマウマ、チーターの4種類だからこそ、実現できた展示なんです。
でも、実際にチーターが他の動物に噛みついてしまったり…… という事故は起こらないのでしょうか?
噛みつこうとしたら、シマウマに後ろ蹴りされてしまうかもしれませんね(笑)。
後ろ蹴り!? すごく痛そうですね……。
かなり痛いと思います(笑)。チーターはライオンなどと違い、群れで狩りをすることはないので、自分よりも大きな動物には基本的には向かっていかないんですよ。
また、ここでは飼育員が常駐して動物たちの様子を見ています。こちらに攻撃をしかけることはまずありませんが、同じ制服を着ていても人物は識別しているようで、見慣れない飼育員が出て来ると警戒することはありますね。
なるほど、確かに、シマウマを襲うことができないのなら、さらに体の大きなエランドやキリンはチーターにとっては脅威に映るんでしょうね。そうした動物の習性や、管理体制があるからこそ、この混合展示を可能にしているんですね!
ところで有馬さんは、この混合展示の見どころはどこにあると考えていらっしゃいますか?
それは“動物同士の関係性”を見ることができるところじゃないでしょうか。例えば、シマウマだけ、チーターだけといった単体での展示では、各々の行動は見ることができても、「同じ空間で生活するとどうなるのか?」というのは見ることができませんよね。でも混合展示だと、長い時間一緒にいる動物たちがお互いどのように関わっているのかを見てもらえる、というところが醍醐味になると思います。
先ほどもシマウマがチーターを威嚇するという話をしましたが、「じゃあ、チーターとキリンだったらどんなことが起こるのか?」「キリン同士で集まっているとどういう行動を取るのか?」など、いろいろな関係性を見ることができるのは本当に貴重だと思います。お時間が許す限り観察していただいて、動物たちがどういう動きをするかを見てもらえると面白いと思いますね。
よく見られるのはやはり威嚇行動で、シマウマの後ろ蹴りや、エランドであれば角を振り回すなど、各々の“武器”を間近で見られますよ。
お互いの関わり方を知ることができる……。普段はテレビでしか見ることができないような、本当の「アフリカのサバンナ」を間近で見ているような気分になれますね。
混合展示を実現するまでの道のり
実際、混合展示を実現するのはとても難しいんですよ。例えばこの草原エリアも、チーターの代わりにライオンを入れるとなると実現は難しいと思います。たとえ草食動物同士の混合展示でも、相性が悪いもの同士だと動物同士がケガをしてしまうリスクもあります。
例えばキリンはおとなしいようで、実はとても蹴る力も強いですし、興奮して走り回ってしまったら危険ですからね。それぞれの動物に、適切な距離感があるんです。
混合展示をはじめる時は、最初が一番気を遣う期間でした。だいたい1年くらいの準備期間があったのですが、まずは動物たちを一種類ずつ、1頭1頭を展示場自体に慣らす、というところから始めました。
今日はキリンだけ、シマウマだけ、というように。
そうして動物たちが環境に慣れたところで、「キリンとチーターを一緒に展示してみる」「次はエランドを入れてみる」と、段階を踏んで環境づくりをしてきました。
動物の相性だけではなく、広大なこの場所で、根気よく飼育と準備を続けてきたからこそなんですね! やはり、ズーラシアだからこそ実現できたものなんでしょうね……。
こんなところにも! リアルなサバンナ感を味わえるさまざまな工夫
この草原エリアでは、キリン、エランド、シマウマ、チーターの4種混合展示を行っているんですよね? ライオンやサイも同じエリアにいるように見えるのですが……
これにはちょっとしたトリックがあるんです。実は、混合展示エリアとライオンやサイの間には深い堀があるんです。
深い堀……動物同士の関係性の間に、ですか?
いえ、物理的なお話です(笑)。基本的に外からは見えないようになっていますが、エリアの間に深い堀が作ってあるんです。だから一緒に暮らしているように見えるんですよ。
なるほど! その堀があるから、動物たちは隣の敷地内には入って来られないんですね。つまりライオンはシマウマのことを「美味しそうだなぁ」という気持ちで眺めているかもしれないわけですね……。
どうでしょう、きちんとエサをあげているので、よほどのことがない限り狩りはしないとは思いますが……(笑)。
実はこのエリア、まだまだ工夫があるんです。坂井さん、何か気づいたことありませんか?
うーん……見れば見るほど“サバンナそのもの”という印象を受けるのですが、何が違うんでしょう?
実はこのエリア、中心が丘のように高くなっているんです。
確かに言われてみれば、ここは遠くを見つめてもサバンナの風景と空しか視界に入ってこないですね。
そうなんですよ。真ん中が高くなっていることによって、動物たちを眺めているとき、反対側にいる人が見えないようにしているんです。そのおかげで、より一層サバンナの雰囲気が増しますよね。また、植えてある植物も極力アフリカのサバンナと見た目が近いものにしているんです。さすがに気候が違うので、現地とまったく同じものとはいかないのですが、日本で栽培できる近い品種のものを植えて環境づくりをしています。
すごい! ここまでサバンナの再現率が高いとSNS映えもスゴそうです! しかも、奥に人が写りこまないから気兼ねなく撮影できますね。
(※動物へのフラッシュ撮影は禁止されています)
飼育担当者が語る“動物への想い”とは
混合展示はエリアも特に広いので、動物たちの自然に近い姿を見てもらえます。例えばチーターは走る姿が有名ですが、ときには野鳥を追いかけるような「かっこいい姿」も見ることができると思います。
お客様に感動や驚きを与えられるような展示ができれば……、と毎日心がけて動物と向き合っています。檻の中の動物を眺める展示ではないからこそ、味わえる感動があると思うんです。それこそ草原エリアは、より強く現地に生きている動物たちを想像してもらえる場所。彼らの生き生きした姿を見て、喜んでいただけたら嬉しいですね。
なるほど。では有馬さんご自身が動物と接するときのお気持ちを聞かせていただけますか?
もちろん“無償の愛”のような愛情を持って動物に接している飼育員も多いのですが、私の場合は“愛着”という言葉の方が合うかもしれません(笑)。関われば関わるほど彼らのことを理解してあげられるし、動物たちも心を開いてくれるので、そうした部分に、日々面白さを感じています。
想像以上にエキサイティング!
混合展示を実際にこの目にするまでは「肉食動物と草食動物が一緒に暮らすなんて、本当に大丈夫?」と疑問に感じていました。
実際に見ると、その迫力は想像をはるかに超えるものでした。
さらにお話を伺う中で、綿密に練られた計画と、飼育員さんたちの日々の努力によってこの展示が実現されていることがわかり、余計にその「ありがたさ」を実感しました。
お話を伺っている間にも、有馬さんの周りには動物たちが次々に集まってきて、飼育員さんをすっかり信頼しきっている様子。その神秘的ですらある光景は、なんだか動物たちと育んできた強い絆を目の当たりにしたようで、とても心に響くものがありました。
見て楽しいのはもちろん、動物同士、そして人間との関係性も学ぶことができる『よこはま動物園ズーラシア』。
本来の自然環境に近いからこそ知ることができる世界が、そこにはあります。
「アフリカのサバンナ」ゾーンの動物たちも朝早い時間帯の方が活動的な姿を見られるので、ぜひオープン直後に訪れることをオススメします!
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3回に渡ってお送りしております、よこはま動物園ズーラシアの魅力。
次回はいよいよ最終回!
世界三大珍獣としてもおなじみ、ズーラシアのアイドル・オカピについてお話を伺っていきます。
※掲載内容は2017年12月時点での情報です。