#2新江ノ島水族館 -クラゲの神秘編-
関東随一の人気を誇る新江ノ島水族館。こちらではクラゲファンタジーホールとクラゲサイエンスという2本のエリアを設け、クラゲの展示だけでなく研究にも力を入れている、全国的にも珍しい水族館です。
インタビュアー
秋山さん
「クラゲって自宅で飼うことは可能ですか?」
新江ノ島水族館
飼育技師 唐亀さん
「基礎を作って水の流れを作ってあげれば可能です。」
「クラゲって自宅で飼えるの?」
新江ノ島水族館で聞いてみた! 飼育の難しさや飼育員の涙ぐましい努力に脱帽
関東随一の人気を誇る新江ノ島水族館。こちらではクラゲファンタジーホールとクラゲサイエンスという2本のエリアを設け、クラゲの展示だけでなく研究にも力を入れている、全国的にも珍しい水族館です。
前回は、クラゲの基本的な生態や食用クラゲのあれこれなど貴重なお話をお聞きし、クラゲへの理解を深めていきました。
後編となる今回は、水族館ならではのクラゲ飼育に関する努力や、自宅でクラゲを飼育する際のコツなど、”えのすい”が100倍楽しくなるレアなお話までをお聞きしていきます!
飼育の基礎さえつかめばクラゲは自宅で飼育できる?
最近、クラゲをペットにする人が増えているという話を聞いたことがあります。確かに、自宅で毎日クラゲを眺められたら素敵だな……って思ったんですが、実際に自宅でクラゲを飼育することなんて可能なのでしょうか?
基本的には可能ですよ。今はペットショップに行くと、3種類ほどのクラゲや、クラゲの飼育キットも売られています。そんなに大掛かりなものでなければ、飼育の基礎さえつかめば大丈夫だと思います。
そうなんですか! その“飼育の基礎”とは?
魚を飼うシステムと同じですよ。水槽に水を入れて、ただエアポンプからブクブクと空気を出すだけでは、金魚は可能でも、熱帯魚や海水魚を飼うことは不可能です。
水槽には濾過機を入れる必要があるのですが、濾過機の中には汚れを取るだけでなく、アンモニアを無害にしてくれるバクテリアが入った砂を入れます。
そうした基礎を踏まえた上でクラゲ用の“水の流れ”を作ってあげれば、自宅での飼育も充分に可能です。
なるほど……! 海でクラゲを採集して飼っても大丈夫なんでしょうか?
大丈夫です。ただ、クラゲ自体は襲ってはこないのですが、直接触ってかさの部分が破れたり形が崩れたりしないように注意が必要です。
クラゲも触られることはストレスですから、水族館でも直接触らないように水ごと移動するほどです。クラゲのほうも触手に触らない限り人間を刺しませんから、そんなに怖がる必要もないんですよ。
また、ポリプ(ふわふわのクラゲになる前)の状態だと数十年維持できると言いましたが、マニアのクラゲ好きの方の中には、親のクラゲではなくポリプを飼育する方もいます。
ポリプは無性生殖で、クラゲを欲しい時に出せます。
つまり、水槽の中で勝手に分裂して増えるので、ポリプが増えたら株分けをしていき、水温の変化を与えてあげることでクラゲが出てくる。
実際、当館でも表では親のクラゲを展示していますが、裏ではポリプをたくさん世話しているんです。
では、ポリプの状態で育てるのと親のクラゲの状態で育てるのでは、どちらが大変なんですか?
ポリプの方が楽ですね。タッパーに海水を入れてフタをして温度を一定にすれば大丈夫ですが、親クラゲは水流のことも考える必要があるので大変です。
あと、親クラゲは壁に当たると削れていってしまうので、当たらない水流を作ってあげないといけません。一番良いのは、回転する水流の真ん中にクラゲがいる状態ですね。ただしクラゲ自体も泳ぐので、そういった動きも考慮した上で、なるべく何にも当たらないようにする。
それを作ることができれば、ご家庭でも親クラゲの飼育は可能です。
ということは、親クラゲを飼育しようと思ったらある程度は大きな水槽を用意する必要がありますよね。
クラゲが小さければ小さな水槽でも大丈夫です。実際に館内の裏で飼育している水槽は普通のご家庭で使っているような四角い水槽です。
そこに、クラゲが吸い込まれないようにポンプの吸い込み口の方に穴の開いた板で仕切り、物が引っかからないようにして、シャワーパイプで全体に水流が常に同じ方向に回るようにして飼っています。
ただ、クラゲは目に見える大きなクラゲだけではありません。中には1cmにも満たない可愛いクラゲもたくさんいます。
そういうクラゲでも、ビーカーにガラスの菅で空気をブクブク送って回転した水を作り、水替えをしっかり行えば飼育はできますよ。
自宅での水替えはどのように行えば良いのでしょう?
ろ過機が付いていない水槽では、エサをあげて2~3時間後、クラゲがエサの不要物を吐き出したら水替えをしたいですね。クラゲにはお尻がないので、口からエサを食べて口から不要物を出します。
不要物は水を汚してしまうので、先ほど言ったタイミングで用意した水に交換するというやり方で大丈夫。
一番簡単なのは、クラゲが入った入れ物と同じ水温の水が入った同じ入れ物を用意して、食後に水が汚れたらクラゲだけを新しい方に移動してあげる方法ですね。
なるほど~! クラゲ飼育がより身近に感じて、私も飼ってみたくなりました!!
当館では、エフィラの状態の子クラゲをお客さんに渡して、2週間の飼育体験をしてもらうプログラムを行っています。
2週間後に、このまま継続して飼育するか水族館に戻すかを選んでいただいているのですが、継続する場合にはその後に必要なエサや設備をお話した上で持ち帰っていただき、それ以外は当館が再び引き取って育てています。
それは面白いプログラムですね! でも2週間の体験の中で、死んでしまうクラゲもいますよね?
そうですね。体の水分がほとんどのクラゲですから、「途中でクラゲがいなくなってしまった」という方もいます。
これは、同じ飼育をしていても、運命的に育たない子もいるので仕方ないんです。クラゲも全部が全部育つわけではないんですね。
飼育環境のお話をお聞きしますが、こちらから指摘できること以外は「生き物は全てが育つわけではないから仕方ないですよ」とお話しています。
子どもたちにとっては、飼育の難しさや命の重みを感じられますよね!
新江ノ島水族館の観察や研究で判明した新事実も!
新江ノ島水族館ではクラゲの世話や展示だけでなく、研究もされているというお話を聞きしました。日々クラゲと向き合っている飼育員さんでも、まだまだ分かっていないクラゲの生態が多いんですか?
そうですね。クラゲは数千種類いると言われていますが、当館にいるクラゲは世界中のクラゲの数%ですし、まだまだ解明されていない謎は多いです。
極端に言うと、卵からポリプの状態にさえ変態させられないクラゲもいるんですよ。採集や購入という形で卵は取れるんですが、それ以上はどうやっても成長しないクラゲです。
「どうやっても成長しない」というのは?
卵からプラヌラという小さな幼生が出て、それが物に付着してポリプになる訳ですが、どうやら付着すべき対象物が決まっているようなんです。けれども、それが何なのかがわからないという状態で。
また、何を食べているのかわからない種類もいました。
図鑑を見ると「クラゲを食べる」という情報は書いてあるんですが、ミズクラゲを与えても全然食べない。
クラゲは、旗口クラゲ、根口クラゲ、ヒドロクラゲなどの種類があるんですが、このヒドロクラゲを食べるクラゲが圧倒的に多いんです。
しかし、そのヒドロクラゲの種類も、ものすごくたくさんあるので、どの種類のヒドロクラゲを食べるクラゲなのかがわからない。
結局、当館のエサにできそうなクラゲは一通りあげみましたが、何も食べないクラゲもいました。
本当にトライ&エラーの繰り返しで、生態がわかっていくんですね……。一方で、館内の観察や研究で最近新たにわかったことや発見もあったとか?
そうですね。最近の例で言うと、ヒョウガライトヒキクラゲの新たな発見がセンセーショナルでした。
この種類は、日本では当館含めてそもそも3ヶ所でしか見られない珍しいクラゲなのですが、これまで野外での生態がほとんどわかっていなかったんです。
そんな中、現地に行って卵を産ませて、プラヌラの状態で持ち帰って、クラゲまで成長させたことで、今では当館でも親の状態を初めて現物で展示することに成功しました。
発見というのは、ヒョウガライトヒキクラゲの生活環が分かったということと、体にヒョウ柄模様が出るプロセスが観察できたことです。
最初はまったくなかった模様が、成長に従って黒い点が出てきて、その黒い点が大きくなって白い点が出てきてヒョウ柄になっていく模様の変化がわかったんです!
すごい! 日々クラゲの生態と向き合ってきた新江ノ島水族館だからこそ出来た大発見だったわけすね。
そうですね。これまでポリプの維持はできるけどクラゲは出てこないという中で、水温を少しだけ上げてみたらクラゲが爆発的に増えたこともありましたし、逆に水温調整をしたらクラゲが全滅してしまった、なんてこともありました。
そういった、ちょっとした違いを日々見つけ、積み重ねていく感じですね。
結果が出なかったらガッカリしてしまいますが、毎日実験的なことを試しながら、良くても悪くても出た結果を今後の飼育や研究に活かしています。
なかなかクラゲは野外で観察することが難しいので、たとえ確率が低かったとしても水族館の水槽を日々観察していることで新たに判明する事実があることは、この仕事の何よりのやりがいだと感じています。
世界初の展示であるヒョウガライトヒキクラゲは、間近で見るとクッキリとした鮮やかなヒョウ柄にビックリ!
世界でも日本の3館でしか見ることのできない、ヒョウガライトヒキクラゲの神秘的な姿を、是非みなさまにもその目で焼き付けて欲しいです!
~飼育員さんでも掴みきれないクラゲの生態……なんだかUMAみたいでワクワクしますよね。そんな謎の生物にさらに迫るべく、なんと次回は館内のバックヤードにドキドキの潜入! 超レアな新江ノ島水族館のクラゲ飼育の実態に迫ります。~
※掲載内容は2017年10月時点での情報です。