#3新江ノ島水族館 -バックヤード潜入編-
新江ノ島水族館の特集シリーズ3作目。今回は、特別に館内のバックヤードに潜入!飼育員さんたちの日々の努力やクラゲ飼育の実態、さらには現在行われているオススメのクラゲ展示のことなども唐亀さんに伺っていきます。
インタビュアー
秋山さん
「大小さまざまな大きさの水槽がたくさんありますね!」
新江ノ島水族館
飼育技師 唐亀さん
「飼育員は表に立ってお客様にご説明するよりも、ここで過ごす時間の方が圧倒的に長いんです。」
神奈川の人気観光スポット新江ノ島水族館のバックヤードに潜入!無数のクラゲ水槽に大興奮
横浜や神奈川県の魅力的なスポットをめぐる、この企画。今回は全国でも人気の水族館である新江ノ島水族館にお邪魔しています!
新江ノ島水族館はクラゲファンタジーホールで約14種、クラゲサイエンスで約36種のクラゲ展示を行っており、日本国内においてだけではなく、世界的にもクラゲ飼育や研究に力を入れているんです。
これまで、前編後編にわたってクラゲの興味深い生活環や知られざるエサの話などを、クラゲの飼育員である唐亀さんにお聞きしてきました。
▼参考
『関東トップクラスの人気水族館! 新江ノ島水族館でクラゲの知られざる生態や秘密について飼育員さんに聞いてみた
『「クラゲって自宅で飼えるの?」新江ノ島水族館で聞いてみた! 飼育の難しさや飼育員の涙ぐましい努力に脱帽』
そして今回は、特別に館内のバックヤードに潜入!飼育員さんたちの日々の努力やクラゲ飼育の実態、さらには現在行われているオススメのクラゲ展示のことなども唐亀さんに伺っていきます。
水族館の中にこんな施設が!?
普段は見ることができないバックヤードに潜入
こちらがクラゲ飼育のバックヤードになります。
おお! 大小さまざまな大きさの水槽がたくさんありますね! なんだか秘密の研究所みたい……。
そうですね。我々飼育員は表に立ってお客様にご説明するよりも、ここで過ごす時間の方が圧倒的に長いんです。毎日複数回の水替え、エサやり、温度調節と、1日のほとんどをここで過ごしているんですよ。華やかな職業に見えて、意外と地味な作業をコツコツと行っています(笑)。
改めて、本当に大変なお仕事なんですね……!
ここの部屋では室内温度を20度に保っており、ポリプや子クラゲの飼育を行っています。小さなビーカーでは、このように管を通して水流を作ってあげています。このような状態を作ることができれば、ご家庭でもクラゲを飼育することは可能です。
このタッパには小さなイソギンチャクのようなものが付着していますね。これがポリプですか!?
そうです。ちなみに、これも立派なクラゲなんですよ。
うわ~! こっちのビーカーの中は小さくてもしっかりクラゲの姿をしていますね。それぞれが違う方向に向かって一生懸命泳いでいる姿がとっても可愛いです!
こちらには冷蔵庫のようなものも置いてありますが、何に使用しているんですか?
これもポリプ飼育用です。種類に応じて10度、15度、25度と適切な温度を保たなければいけないので、温度の違う冷温庫が必要なんです。クラゲの飼育では、この温度調節がもっとも重要になってきます。少しでも適正温度を間違うとクラゲが死んでしまうこともあるので。
館内ではたくさんのクラゲを一気に飼育していますが、ご家庭でクラゲを飼育する時はクラゲ1匹のために、その温度をキープしなくてはいけません。水代やエサ代よりも、この温度調節のための電気代が一番大変ではないかと思います。
それぞれの冷蔵庫の中にも、ポリプが入ったたくさんの入れ物がありますね。もしかして……これらもすべて毎日水替えを行っているんですか?
そうです。すべてのポリプをスポイトで吸って、新しい水が入った入れ物に移しています。気が遠くなるような作業に感じますが、慣れたら一つの入れ物も数分でできちゃいますね。
プロといえども……生物を育てる難しさを日々痛感!
こちらが先ほどお話した、エサのブラインシュリンプです。これは孵化したブラインシュリンプをビーカーの中に入れたので茶色い液体のように見えますが、よく見ると小さなつぶつぶ状のものが見えませんか?
見えます! これらひとつひとつをクラゲは食べているんですね。開館中にもエサやりタイムがあるということですが、その瞬間をぜひ見てみたいです!
ちなみに孵化する前の乾燥したブラインシュリンプはこんな状態です。本当にただの砂のような形状をしていますよね。
こんな風に、ポリプの状態から日々お世話をして育てていると、まるでクラゲが自分の子どものような気持ちになってきそうですね。
そうですね。生物を飼育するということは楽しいこともたくさんありますが、もちろん辛いこともあります。やっぱりクラゲはまだまだ謎が多いので、今でもポリプからエフィラがなかなか育たない種類のクラゲがいて、温度を上げたり光を当てたりと色々なことをしているんですが、ふとしたことで一気に全滅してしまったり……。
こちらのヤナギクラゲを見てみてください。左の方がかさも厚みがあり、体がしっかりしているように見えませんか?
確かに! 右の方はなんだか弱々しいですね。なんとなく泳ぎ方もスムーズではないように見えます。
実は、左がすでにクラゲの状態で採集してきたもの、右はポリプの状態から当館で育てているものです。やはり、どうしても海の中で育つ過程と全く同じ状態を再現することは難しいんですね。自然には勝てないのですが、ではどうしたら解明されていない正解を見つけることができるのか?それを日々、このバックヤードで試行錯誤しています。
子どもたちにとっては、飼育の難しさや命の重みを感じられますよね!
まだまだ正解が見つかっていない状態で、思い通りに飼育することができないのは根気との勝負という感じですね。
一生懸命育てても全滅してしまうと、もうガックリしてしまいますよね(笑)。そういう経験を展示や研究に繋げていっているわけですが、これは約60年という歴史の中で旧江の島水族館時代からやっていることなんです。
旧館が最初に「ミズクラゲの生活環を確立してクラゲの飼育を展示しよう」ということを始めたので、基礎を作ってくれた先輩方のおかげで今の私たちがあるということなんです。
このバックヤードでたくさんの飼育員さんが悔しい思いや大変な仕事をしてきたわけですね。でも脈々と歴史や経験が紡がれているのは、さすが“えのすい”!
今年から展示開始のクラゲも! 幻想的な限定イベントが盛りだくさん
そんな新江ノ島水族館ですが、「ナイトワンダーアクアリウム2017 ~満天の星降る水族館~」が開催中とのことで、オススメのイベントを教えてください。
「海月の宇宙 ~そらを泳ぐクラゲ~」ですね。クラゲファンタジーホール全体がプラネタリウムになり、クラゲの形をした天体を紹介する上映が行われています。水槽では見ることができない夜のクラゲは、いつにも増して幻想的でとても美しいので、非日常の素敵な体験ができると思いますよ。
ホールが真っ暗になった状態でのクラゲも、普段は見ることができないのでとても貴重ですね。これはぜひデートで来たいところ……! その他にもチェックすべきクラゲがいたら教えてください。
繁殖に成功し、今年から展示が始まったブルージェリーという種類は、ぜひ見てみてください。日本に紹介された当初は青色だったためこの名前がつきましたが、白や赤など様々なカラーバリエーションがあることがわかっています。
ただ、なぜカラーバリエーションを持つのかなど生態の詳細は分かっていないことが多く、また水族館での繁殖成功例もとても珍しいため、当館でも引き続き成長過程を観察していく種類です。小さな丸みのあるフォルムと、活発な動きは他のクラゲともまた違う魅力があり、とても可愛いですよ。
また、9月は「クラゲの9月」として、クラゲに関する書籍紹介や今回見ていただいたバックヤードツアー、クラゲの夜間採集など、クラゲのとっておきイベントが目白押しになっています。
クラゲを月に見立てた展示「クラゲで海のお月見」は、秋にしか楽しめない演出になっているので、ぜひ見逃さないでいただきたいですね!
これから新江ノ島水族館のクラゲコーナーに行くのがますます楽しみになりました!本当にありがとうございました~!
バックヤードにお邪魔させていただき、新江ノ島水族館のクラゲ飼育に対する情熱や努力を垣間見ることができました。飼育員さんは苦労が多いお仕事だけど、その分やりがいや感動もひとしおなんですね。
唐亀さんからたくさんお話を聞いたことで、かなりクラゲについて詳しくなってきました!
クラゲだけでなく、あらゆる生物って本当に奥深くて面白いですよね。次回は、新江ノ島水族館のその他の展示や見所、オススメの水生動物などについて、たっぷりとご紹介していきます!
※掲載内容は2017年10月時点での情報です。